気温制御技術の完成を突如正式発表

 東京技術大学、気象庁、文部科学省、総務省が合同でかねてより実験を繰り返していたiECアクティベーターの完成発表会を行った。事前予告なし、日付が変わって2036年になったばかりの瞬間に太田慈郎教授の自宅にて開催されたため、発表に立ち会ったマスコミは本紙のみ。ちなみに円形コタツで開催された。

 iECアクティベーターは直径100キロ圏内の気候を自在に制御する技術で理論は2015年に太田教授によって発表されていた。エアコンとは異なり、温度を維持したまま大気を保管しておき、必要時に限定的に流出させることで温度調節を行うもの。
 大気をどのようにどこで保管しているかは極秘とされている。太田教授によれば核エネルギーと同じで悪用されれば気温で人を殺傷することができるため、極秘にしたとのことである。
 この技術の使用を管理する公的機関を設立する動きが、天下り先を確保したい思惑の各省庁内で盛んに繰り広げられていたが、太田教授の鶴の一声で「気温制御国連」が結成されることになった。この技術を利用したい場合は国家単位で気温制御国連に加盟し、温暖化やミニ氷河期についての研究に資金を提供することが義務とされる。また、大気の提供も義務とされるため、各国、各地域の多彩な大気をそろえることが可能となった。

 「もう一つの国連を作るために研究と同時に世界を走り回りました。そして局地的に、時間を区切って制御するため自然界への影響は最小限に食い止められることも説明しつづけました。とにかく木を切ったり河川を曲げたりしてきた過去の所業に比べれば、大気は一瞬にして混じって消えてしまうのだからしっかり使用を管理すれば世界平和への一歩になると訴えました」と太田教授は語った。
 「特にアフリカのある部族の長との会見が印象的でした。儀式のときにちょうどよい気温になればもっとアグレッシブに踊れると思っていた、ぜひ加盟したいということでしたね。乾季や雨季のコントロールをするのかと勘違いされてここでも最初は神への冒涜と叱られたものですが、一緒に踊って疲れ果てたときにさーっと軽井沢の大気を流したらみんな喜んでくれて、一瞬の快適さが苦しさを忘れさせると一気に感動が広まりました」と教授はお屠蘇をなめながら興奮気味に振り返った。

 気温制御国連の初代事務総長選挙は2月に行われ、3月に組織体制を整え、4月から加盟国はアクティベーターの利用が可能となる。利用を希望する場合、各国に設置予定の事務局に詳細な理由書を提出し認められれば予定日に温度を調節してもらえる。個人の申し込みも受け付ける。
 場所や時期については混乱を避けるため基本的に申請者以外には公開しないが、イベント時に「20度を感じたい人は○日にラウンドマークシティーに集合!」「キムラカエル、真冬に半袖、快適気温ライブ!」などと告知することもあるかもしれない、とのこと。

アクティベーター利用が認められるのは現段階では以下のような場合だという。
・熱中症対策のために屋外活動の間だけ気温を下げる
・停電時の凍死対策、豪雪対策のために夜間の気温を上げる(なだれ警報あり)
・紅葉が進まない時に夜間だけ一瞬気温を下げる(きのこにも効果あり)
・クマがなかなか冬眠に入らないときに山の気温を下げる(山立ち入り禁止あり)
・高熱で苦しむ患者のいる病室の温度を下げる(隣室へも影響の可能性あり)

認められない場合について気象庁職員はほろ酔い気分でこう語った。
・葬儀の日が雪になりそうなので気温を上げて回避してほしい…故人の遺志で雪の場合もあるため却下
・クリスマスに雪を降らせてほしい…漠然たる希望は不可、プロポーズの計画など詳細かつ感動的な提案書提出が必須
・サーフィンをやりたいので気温を激しく上昇させてほしい…海水温度を上げるには相当の大気が必要になり、保管大気を無駄遣いしてしまうので却下

 円形コタツで和気あいあいと語り合う面々に混じって記者もお屠蘇を頂いた。教授は「若干の混乱もありえるが、やってみなはれの精神でやっていきますので、今後とも報道よろしくお願いします」と記者に頭を下げた。
 この後初詣に行くので近所の神社周辺の気温を上げてほしいと頼むと「寒い中行くのがいいんですよ。風情があるんですよ。あなた日本人でしょ」と簡単に却下されてしまった。気温制御国連は普通の理由では動かない、国際連合よりも手ごわい組織になりそうだ。

投稿日: 1970/01/01 09:00:01 (JST)

※本記事は、対象となっている事柄について、無限に広がる未来の可能性の中のたった1つを描いているに過ぎません。 ですから、決して記事の内容を鵜呑みにしないでください。 そして、もし本記事とは異なる未来を想像したのなら、それを別の記事として書いていただけると幸いです。 このプロセスを通じて、私たちは未来についての視野を広げ、未来の可能性を切り開いていくことができるでしょう。

コメント

今回も大作ですね。しかも、ほかの未来記事の内容をも取り込み、すごいことになってます。こういう、ものすごいテクノロジーが出てきたときに世界がどう動くかというのはリアルに関心があります。たった1つのテクノロジーで、世界の頂点に立つ国や組織が登場してしまう未来については私も記事を書いてみたいです。

オラクル (日付:

何事も協力体制が大事だと思います。

久野香奈 (日付:

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