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「国買います」?!生井増国へ各国激しい売り込み

 面積は新・新・新国立競技場十個分しかない小さな独立国家、生井増国。先週、Webサイトに「国、買います」という告知をアップしたところ、各国から激しい売り込みが殺到しているという。
 財政面、文化面で行き詰っている国を国民まるごと買い上げるというこの企画、高齢化問題や財政難を百年かけて解決した生井増国のものだけに、各国の注目度は非常に高い。

 生井増国はもともと「日本」という国にあった、小さな町だった。老人が多く、若者が都市部へ流出していくのを眺めているしかなかった。
 しかし2010年代に着任した小原黒佳子町長のポイントカード制、住民基本台帳の宇宙保管などの企画が次々と当たり、若い世代の大量移住につながった。当時の様子は「おいましブーム」と呼ばれ、小原黒町長は今も生井増国中興の祖としてあがめられている。

 「本気なのかふざけているのか分からない」と批判されることも多かった小原黒氏の奇抜な政策であったが、その政策理念を町は代々引き継いでいった。約50年後にはおいましは市になり、2110年にはついに「国家」となった。この国家創設は「なし崩し的無血国家成立」と呼ばれる。その後いくつかの町や市が同様に国家創設を目指したが、中途半端ななし崩し手法により結局成功しなかった。

 生井増国も順風満帆だったわけではない。もともと老人人口が多く財政難は国の長年の懸案だった。それを打開したのが2152年に導入された「寿命を知って財産を使い切る宣言」であった。略して「生き切る宣言」と呼ばれる。
 「もし、寿命が分かったら安心して貯金を崩しますか?」という問いに対して、なんと75歳以上の国民すべてが「はい」と答えたことがきっかけだった。これを受けて史利咲太郎首相(当時)が「よし、寿命を知ろう!」と遺伝子分析の研究を進めるよう指示した。

 その結果、数年の誤差はあるものの、60歳以上であれば大体の寿命を予測することが可能になった。「最初のうちは、さすがにおっかなびっくりだったそうですよ。75歳くらいが寿命って言われて、じゃあ年にいくらぐらい使っても大丈夫だって分かっても、仕事を辞めたり遊んで暮らすのが怖かったそうです」と「国家統合計画部」部長は教えてくれた。
 生き切る宣言第一世代では一番長く生きた人で104歳だった。「ご本人は60歳のときにこの後40年も生きるのか?!と仰天したそうです。それでも上手に使い切って、うまいこと子供に残してこの世を去りました。この方が第一世代の最後の方となりましたが、第二、第三の世代がたいへん楽しそうに暮らすのを見て、国民の中で60歳までに一生懸命働き貯めておいて、あとはぱーっと使うという意識が根付きました。また老人が余剰財産を子や孫の世代に回しますので、比較的皆さん余裕のある表情をしていますね」(国家統合計画部部長)

 生き切る宣言は「先が分からないから希望もあるが、不安もある。年齢が上がるにつれ不安ばかりが募る」という、永遠と思われた根源問題から人類を解放した。人口の多い高齢者が経済に参加することによって、若い世代の仕事が増え、収入増につながり、出生率も驚くほど上がった。特に生井増国では建設業、医療の分野が盛んになった。公共サービスに携わる若者も増え、サービスが向上した結果、税収も上がった。

 次の問題は土地問題である。小さな島では土地不足が目立ち、このままでは国民の海外大量流出もまぬがれない。そこで生井増国は「国、買います」という企画を持ち上げたのである。

 国の買取は植民地とは異なり、もともとの国の名前は必ず残す。また言語や行政機能も出来る限りそのまま残すという。現在国が抱えている負債は生井増国が代わって返済する。
 ただ一つの条件は、60歳を過ぎたら全国民に寿命を通知し、ちゃんと生きてちゃんと死ぬことを法制化し、厳守すること。といってもあまりちゃんと生きていなくても、ちゃんとこの世を去れば特に責任を問われることはない。

 現在の国家元首は強気だ。
「誰しもちゃんとこの世を去れるんですよ。最期は一人で寿命をまっとうするんです。寿命さえ分かれば安心でしょう?え、知りたくない?怖い?いやいや、生まれたときに寿命を宣言されたら怖いですよ。でも60歳過ぎてたら、むしろ知りたくありませんか?知る勇気を持てば、このような国が運営できるんです。そして寿命をまっとうしてもらうために、我々はくだらない領土争いをしないで土地を譲ってもらう方法を考えたのです。つまり、買うのです。買ってもらった方は覚悟さえしてくれれば、元の生活を守りますし、なによりもっと安心して暮らせるように導きます」

 一番最初に売り込んで来た国は?と尋ねると国家元首は「それは言えませんよ。でも、記者さんが想像している国で合っています」とニヤリと笑った。

 各国のプレゼンテーションは半年後から始まる。災害の少なさ、絶やすべきでない文化、観光資源、特筆すべき国民性など、各国のアピールポイントはいろいろ。その中から「寿命を知る覚悟が感じられる国」を選びたいというのが国家元首の思惑のようだ。

投稿日: 1970/01/01 09:00:01 (JST)

※本記事は、対象となっている事柄について、無限に広がる未来の可能性の中のたった1つを描いているに過ぎません。 ですから、決して記事の内容を鵜呑みにしないでください。 そして、もし本記事とは異なる未来を想像したのなら、それを別の記事として書いていただけると幸いです。 このプロセスを通じて、私たちは未来についての視野を広げ、未来の可能性を切り開いていくことができるでしょう。

コメント

久野香奈さん、久々に登場と思いきや、超力作ですね~。普通の未来記事にして4個分くらいのパワーを感じました。
寿命が分かる技術が登場する可能性は結構高いのではないでしょうか。しかし何より、その技術が何に使われるのかまで想像されているのが、「落としどころまで想像する」未来新聞の趣旨にぴったり沿った記事だと思います。
さらっと読んだのではもったいない感じ!

オラクル (日付:

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