21世紀も四半世紀が過ぎたが、人の営みは大昔と変わらない面がある。冠婚葬祭の中でも葬式は「変わらない」ものの代表ではあるが、ちょっと異変が生じつつある。しめやかに故人を偲ぶことだけが葬式の目的ではなく、亡くなる前に故人が自分自身のことを周囲の人にどう伝えたかったのかを、一目でわかる新聞号外として葬式で配布することが、密かなブームになってきている。
高齢や癌などで死期がせまりつつある故人が、「終活」という言葉で表されるように、お墓などの準備をすることが今世紀初頭からじわじわはやってきたが、その一環として、数年前から「号外」配布が登場してきたようだ。この葬式での「号外」であるが、従来の新聞の号外と同様の、タブロイド版で両面印刷が基本形である。故人が、「号外」作成の専門コンサルタントと協議しつつ、紙面を練って作っていくそうだ。
「号外」の内容は千差万別であり、故人の性格が大きく反映されることが多い。男性で仕事一筋の人の場合は、業績を年次形式で淡々と綴る場合もある一方、失敗談やエピソードなどを中心に「三面記事」のように面白おかしくまとめる人も居る。葬式に際しての友人らからの別れの言葉を入れる人も居る(故人の生前の取材によるが、言わされる側もたまったものではないだろう)。いずれにせよ、せっかく葬式に足を運んでくれた人に対する「おもてなし」の精神が根幹にあるようだ。
「葬式号外」コンサルタントの有限会社ウインドウィルの佐藤直子女史はこう言う。「このサービスを始めたのは弊社が初めてだと思います。もともと弊社は社史や自分史を発行することを手がけてきました。未来新聞社と手を組んで事業をする中で、自分史を未来記事形式で書くアイデアを思いつきました。お葬式というのは究極の自分の未来発表の場なので、じゃあ号外を発行してはどうだろうと始めたんです。」号外印刷は既存の新聞社に依頼しているとのことだが、近年、新聞の発行部数減少に伴う輪転機の空きが多いことも追い風になっている。面白いのは、「葬式号外」のコンサルタントを依頼した高齢者は、「葬式号外」の記事づくりがモチベーションとなって、新たな趣味を始めたり交友関係を広げたりとアクティブになって、むしろ長生きする人が多いそうだ。
考えてみれば、生前から自分の葬式をプロデュースすることは、未来に起きることを過去形で書く「未来新聞形式」と確かに似通っている。そもそも日本人は、年賀状で「昨年はお世話になりました」と書く作業で、未来の視点から過去形で書く文化が背景にあるのだろう。この「葬式号外」、21世紀型の冠婚葬祭の一亜型として定着するかもわからない。
投稿日: 1970/01/01 09:00:01 (JST)
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