国際化社会において、各民族の特性の違いを明らかにした上で相互理解することが、ますます必要になってきている。ここで、中国やロシアでは議会制民主主義や三権分立が根付かないことをもって、民度が低いと評価される点に対して疑義を述べたい。これらは民度が高い低いという優劣の問題ではなく、並列して論じられるべき差異の問題である。
民主主義や三権分立の根底にはアンチ独裁の思想があり、その思想を信じている民族からこれらは支持されているに過ぎない。一方で、中国やロシアのような大陸国家では、独裁が正しいと国民が信じている。歴史的にも、国内で権力が分散した時期、例えば中国では三国時代には、あちこちで争いが起こって人口が7分の1に激減した。またロシアでは国内が統一されていない時期にたまたま強大な隣国(モンゴル)が現れて、小国が各個撃破され蹂躙された。
こういった民族の記憶から、中国やロシアでは権力が分散されることに恐れを抱いているのである。逆に強大な権力が中央に集中している時期は、中央では血で血を洗う権力闘争が繰り広げられても、国民は平和で豊かに発展するのである。なぜ、中国やロシアのような大陸国家でこのような特徴があるのか?・・・それは、海が見えないからだ。
仮に、国家内に、時の権力に対して反乱する異分子がいるとする。その異分子を完全に掃討するか、生かして受け入れるか。この選択においては、異分子が目の届かない所に逃げて、大軍を引き連れて戻ってきて、時の権力を打ち破る可能性があるかないかが要因となる。大陸(内陸)国家においては、異分子を生かしておくと、どこか山の向こうに逃げて隣の国の大軍を引き連れて戻ってくる恐れが生じるから、異分子は生かしておいてはいけない。四方八方が地平線という恐怖(権力者から見て)が想像できるだろうか。目を閉じてじっと想像していただくと幸いだ。一方で海洋国家では、海という国境線があるから、異分子は逃げにくいし、島流しにするという妥協点も見いだせる。関ヶ原の戦いで勝った徳川方は、西軍の毛利、島津を討伐せずに生かして受け入れた。小国として生かしておいても、しょせんは海という国境があるからそれ以上は成長できないしということで。だが、同じ戦いが中国で起こったら、負けた側は一族もろとも処刑されるのが常だ。
であるがゆえに、中国では政権交代が起こると、前の政権の影響は徹底的に排除される。例えば、前の王朝の歴代の墓があばかれて死体に鞭打たれることもある。したがって、日本のように前の王朝の影響をそのまま保存することはまずしない。例えば室町幕府を滅ぼした織田信長は金閣寺や銀閣寺をそのまま残したし、徳川を打倒した明治政府は日光東照宮などの徳川の菩提寺を残したが、中国ではそのようなことはまずない。そして、大陸国家では権力が集中して、皇帝と平民との間には圧倒的な財力・権力の差が生じるが、海洋国家の王制ではそこまでの差は生じない。
共産主義がロシア・中国・東欧などで根付いたのも同様の理由からであろう。マルクスは資本主義の成熟後に共産主義へ移行すると唱えていたが、実際に共産主義革命が起こったのはマルクスが予想したドイツではなく、資本主義が成熟していないロシアであった。共産主義はプロレタリア独裁を掲げているように、独裁主義の色が濃い。そして後に、東西ドイツのうち東、南北朝鮮のうち北、南北ベトナムのうち北が共産化したのも、単に共産主義の宗主国のソ連に近いからという理由だけではなく、より「海が見えない」内陸性の地理的条件がもたらす民族性によるものだろう。
そして、これら「民族の記憶」は継続して次世代に伝わっていく。大陸国家の価値観に合わない人は排除されるか、よその海洋国家に逃げていくからだ。では、海洋国家のキューバが共産主義を受け入れたのは奇異に感じるかも知れないが、彼らはアフリカ由来であり、大陸国家の記憶を持っている人が多かったからだろう。韓国は三方を海に囲まれており、海洋国家に近く、それゆえ議会制民主主義を受け入れたものの、大統領に権力を集中させて政権が交代すると前の大統領が失脚させられるような大陸的な独裁色が残っていることも、近隣に強大な大陸国家(中国)がありその影響を受けた民族の記憶といえるだろう。
まとめると、議会制民主主義や三権分立は、あくまでもイギリスのような海洋国家が提示したものであり、日本がそれを受け入れたのは進歩的だという理由ではなく、単に同様の海洋国家であったからに過ぎない。大陸国家は独裁を是として歴史を上書き保存するが、海洋国家はアンチ独裁で歴史を名前をつけて保存する傾向がある。
投稿日: 1970/01/01 09:00:01 (JST)
※本記事は、対象となっている事柄について、無限に広がる未来の可能性の中のたった1つを描いているに過ぎません。 ですから、決して記事の内容を鵜呑みにしないでください。 そして、もし本記事とは異なる未来を想像したのなら、それを別の記事として書いていただけると幸いです。 このプロセスを通じて、私たちは未来についての視野を広げ、未来の可能性を切り開いていくことができるでしょう。
コメントの書き込みにはログインが必要です。